品質改善:実は原因究明・対策検討より「対策実行」の方が難しい

実は対策実行は思ったより難しい

大阪・兵庫が地盤で、品質管理・生産性向上等の「工場経営改善」を得意とするコンサルタント、 薄木栄治 です。

さて、前回のブログでは、品質不具合の原因は大きく「ルール」「技術」「エラー」の3つの要素に分類され、このように単純化して考えると、複雑に考えていた原因究明が簡単になると述べました。 本質的な原因を究明すれば、おのずと対策は決まり、それを実行することにより品質不具合が減少していくことになります。 しかし、こんなに簡単に品質不具合は減少するでしょうか? 実は、対策には簡単に実施できる対策と簡単には実施できない対策があります。 前回のブログで検討した「転記ミス」の原因の中で、「技術要因」である老眼対策は容易でありますが、ルールを作って守らせるという「ルール要因」については、対策の実行が大変難しくなり、対策が中々実行できないと社内で悩んでおられる担当の方も多いと聞いています。

対策実行は難しい

「ルール要因」である「Wチェック」の実行について見てみましょう

前項の通り、「技術要因」は、対策が間違いなければ必ず効果が出ますが、「ルール要因」については、ルールの決定から実施まで多くの関門がありその実行は大変難しくなります。

そこで、「転記ミス」について、「Wチェック」を実施するという対策を考えた場合の例について考えたいと思います。 皆さんにとって「転記ミス対策」として「Wチェック」は有効な対策であると考えるのが大半の意見ではないでしょうか? しかしながら、私は「Wチェック」の実施は転記ミスが減ることもあれば減らないこともあると考え、場合によっては、品質不具合全体としては、以前よりも増える可能性があるというのが私の結論です。

「Wチェック」で必ず転記ミスは減少すると考えている方は、ひとつ大きな要素を見落としています。 というか、見ないようにしています。 「Wチェック」の担当者は、あなたですよと言われたときに、あなたは成功すると考えるでしょうか? 当然、今まで実施していた仕事にプラスして「Wチェック」の仕事が追加されます。 そうです、自分以外の誰かが「Wチェック」を実施してくれると考えるから「Wチェック」は成功すると考えるのです。 「Wチェック」を効果的に実施することは簡単ではないのです。 具体的な例で検証していきましょう。

Wチェック実施

「Wチェック」を効果的に実施するためには?

それでは、「転記ミス」について対策として「Wチェック」を実施する場合、どのようにすればうまくうまく行くのでしょうか? 検討していきましょう。 皆さんが品質担当者になったつもりで考えて下さい。

まず、皆さんが「転記ミスによる品質不具合が生じたので「Wチェック」を実施して下さい」と関係者に指示した場合、関係者は「Wチェック」を実施してくれるでしょうか? 一般的には、「転記ミス」を起こした部門は実施するでしょうが、それ以外の部門は、自分たちは「転記ミス」は関係ないとして実施しないでしょう。 また「Wチェック」を実施した部門もしばらくすれば、実施しなくなる可能性が高いでしょう。

なぜ「Wチェック」はうまく行かないのでしょうか?

その答えは、対策実施には必ず「工数増加」を必要としているからです。 働いている皆さんは、全員忙しくしており、余分な仕事をする余裕はないと考えています。 ですから、「Wチェック」をするようにという指示は、誰かがしてくれると考え、自分は実施しなくてもよいと考えます。 そして、品質意識の強い一部の人が、「Wチェック」を実施しますが、廻りが無関心でいるとしばらくすると実施しなくなるというのが現実です。

また、この一部の人というのは普段から品質維持のため、常に気を配っており、品質不具合を事前に摘み取っているのですが、その気配りが「Wチェック」のために減少します。 そのため、転記ミス以外の品質不具合が頻発することとなり、「Wチェック」を実施したために、トータルとしての品質不具合件数が増加するという事態にもなります。

なぜうまくいかない?

「Wチェック」を成功させるためには!

上記のような事例は皆様にも思い当たることがあるのではないでしょうか。 さて、このような状況にならないためにはどのようにすればよいのでしょうか? まず、やるべきことを書いてみると、

(1)「Wチェック」を実施する担当者を決める(責任の明確化)
(2)「Wチェック」の実施内容を明確にする(マニュアル化)
(3)「Wチェック」を実施する趣旨を関係者に理解してもらう(趣旨説明会)
(4)「Wチェック」の実施状況のフォロー及び改善を実施する(継続的改善)

となります。 それぞれについて検討していきましょう。

(1)実施担当者を決める(責任の明確化)

まず実施担当者を決めることですが、当然関係者の皆さんは自分が「Wチェック」を実施する担当者であるとは思っていないので、はっきりと担当者を決め責任を持って頂く必要があります。 また、担当者に指名するに当たり、「Wチェック」で増加した工数を他者へ移管することも必要になります。 この場合、全体の効率を上げ、その浮いた時間を「Wチェック」に回すのが最も良い方法ですが、それができない場合は、人員を増やして対応することも必要になるかもしれません。 いづれにしても、「Wチェック」を実施して頂く担当者の方に工数面でも納得して頂いて実施することが、最低限必要です。

(2)実施内容を明確にする(マニュアル化)

次に、実施内容の明確化で、まず、「Wチェック」の対象案件・実施方法を明確にします。 例えば、

<対象案件>
①影響の大きい製品のみとする
②品質に大きくかかわる重要部位のみにする
③品質不具合を起こしやすい作業者のみとする

<実施方法>
④2人で一方が読み一方が確認を行う
⑤マーカで消込みを行う
⑥チェック後に日付、サインを記入する

などです。

そして、この中で実施内容をできる限り簡素化する必要があります。 当然、必要な項目は絶対に削減するわけにはいきませんが、費用と効果を考え最低限必要な項目に絞ります。 品質不具合の対策というのは、単純であまり面白い作業ではありません。 そのため、出来るだけ項目を絞り、ここだけは、絶対にきっちりやるという進め方でないと長続きしないからです。

このように決めた内容については、誰が見ても解るように「マニュアル化」を実施しましょう。

(3)実施する趣旨を理解してもらう(趣旨説明会)

次に、「Wチェック」の趣旨を関係者全員に理解して頂くことです。 品質不具合によって、

①お客様にどれくらい迷惑をかけたか
②会社がどのくらい損害を出したか
③会社の信頼をどのくらい傷つけたか

などを説明し、「Wチェック」の重要性を理解して頂きます。 人は、その趣旨を理解してこそ真剣に取り組みますし、長く続けることができるようになるのです。

(4)実施状況のフォロー及び改善(継続的改善)

上記の準備を整えて早速対策を実施に移します。 これだけ準備したにもかかわらず、しばらくするとうまくいかなくなります。 どのように事前に考えたとしても実際に実行に移してみると思いもかけないことが現出します。

趣旨を理解していない人がいたり、思った以上に工数がかかったり、実際の作業者から不満も出てきます。 そう、うまく行かないのは当たり前なのです。 ここで、うまくいかないからといってあきらめないでください。 それこそうまく行かない原因を「修正なぜ分析」で突き止め、その対策を実施します。 いわゆるPDCAを回すというものです。 これを、2回3回と回すと少しずつうまく行くようになってきます。 品質担当者はここまで粘り強く取り組む必要があります。

PDCAを回す

まとめ

品質不具合の中で「ルール要因」に関しては、対策の実施が容易でないことを述べてきました。 そして、「ルール要因」に対しては、以下の4項目を充分考える必要があります。

(1)実施担当者の決定(責任の明確化)
(2)実施内容の明確化(マニュアル化)
(3)趣旨の理解活動(趣旨説明会)
(4)実施状況のフォロー及び改善(継続的改善)

いくら原因究明を正しく行い、適切な対策を考えたとしても、その対策の実行がうまく行かなければ品質不具合は減少しないのです。 逆に、対策が不十分であったとしてもその実行をきっちりとすれば、その効果は大きいいのです。

そして、「ルール要因」の品質不具合対策を1件完全に実施できれば、ルールを作り・守るという体制が出来上がりますので、この案件以外の品質不具合にも大きな効果が得られるようになります。 そう、色々な品質不具合の対策を中途半端に数多くするより、まず、1件の「ルール要因」の品質不具合の対策を完全にやりきることが、品質不具合削減の大きな一歩となるのです。

ここまで、対策の実行の重要性を述べてきましたが、世の中には、あまり対策の実行をうまく進める方法というのは解説されていないようです。 次回は、プロジェクトとして品質改善を実施していく考えについて記載していきたいと考えています。

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