ISO9000認証を取得しても品質不具合が減らないのはなぜか?

ISO9000について

大阪・兵庫が地盤で、品質管理・生産性向上等の「工場経営改善」を得意とするコンサルタント、 薄木栄治 です。

さて、前回のブログでは、「品質第一」を実践することが重要であることを記載しましたが、今回はISO9000の認証を取得して品質管理に真剣に取り組んでいるにも関わらず、品質不具合が思ったように削減できないという企業様の悩みについて考えていきたいと思います。

ISO9000(JISQ9000)「品質マネジメントシステム」は日本でも多くの企業様で認証を取得されている広く知られた規格です。 「品質管理といえば、ISO9000」と呼ばれ、この認証の取得により、品質管理がしっかりした信頼のできる会社であると認められ、取引の条件になることもあります。 このように大変素晴らしい評価を受けているISO9000ですが、「ISO9000の認証を取得しても一向に品質不具合が減らない」ということを良く聞きます。 なぜこのようなことが言われるのでしょうか? 私は、「ISO9000の認証取得により、間違いなく品質不具合は削減できているが、想定したほどは削減できていない」ためであると結論づけています。

この結論になった理由を以下に記載していきます。

なぜISO9000認証を取得するのか?

まず、多くの企業様が本規格の認証を取得しようとする目的を考えると、大きく下記の3点に集約されます。

①自社の品質管理体制が充実し、品質不具合による無駄な工数・コストを削減できる。
②顧客から、取引を継続するために本規格を取得するように勧められる。
③世間から品質管理がしっかりしており、信頼できる会社であると認められる。

この中で、①を重視するか③を重視するかにより、その効果は大きく変わってきます。 ③であれば、認証取得そのものが目的ですので、品質管理の体裁を整えるだけとなり、品質不具合が減らないのは当然です。 しかし、①であっても、品質不具合が減らないと感じている企業様がおられるのも事実であり、こちらの理由については明らかにしていく必要があります。

ISO9000の基本的考え方

このように、ISO9000の認証を取得しても品質不具合が一向に減少しない原因を考えるためにまず、本規格の基本的考え方について見ていきます。 本規格については、様々な解説本やネットでの検索により多くの情報を得ることができますが、本規格が最も重視するキーワードは次の8点であると言われています。

ISO9000のキーワード

①品質方針 ②組織 ③リーダーシップ ④計画(PDCA) ⑤資源 ⑥力量 ⑦コミュニケーション ⑧文書化 です。

細かい説明は省きますが、管理をするために必要な項目は全て入っていると思います。 例えは、①「品質方針」を、「経営方針」に変更すれば、経営に関しての管理項目のほとんど全てが網羅され、立派な経営管理ができるように思えます。 つまり、この規格は、品質管理に対して経営管理と同レベルの要求をしていますので、全くスキのない大変優れたシステムであると言えます。 一方、スキのないシステムにするため文書化などが細かく規定されており、本規格を維持・向上させるためには相当な工数のかかるシステムになっています。

 

管理システムで品質不具合は減少するか?

上記のように、本規格は管理システムとしては非常に優れたものでありますが、品質不具合というある意味では非常事態に対して有効に機能するでしょうか? 例えば、管理としては非常に優秀な官僚組織は、現在の最大の懸案事項のコロナ対応に対して有効に機能しているでしょうか? そう、官僚組織は現状を維持向上させることには非常に有効ですが、非常時対応が苦手であることは周知の事実ですね。

管理システムで機能するのは、現状の維持と段階的な改善であって、品質不具合が多発するような非常事態では、それに特化した別のやり方を採用する必要があることが解ります。

ISO9000に記載されている品質不適合に対する記載事項

また、本規格では品質不具合(不適合)に関して、10.2章に「不適合及び是正処置」として下記の通り記載されています。

1) その不適合をレビューし、分析する。
2) その不適合の原因を明確にする。
3) 類似の不適合の有無、又はそれが発生する可能性を明確にする。
4) とった全ての是正処置の有効性をレビューする。
5) 必要な場合には、計画の策定段階で決定したリスク及び機会を更新する。
6) 必要な場合には、品質マネジメントシステムの変更を行う。

再発防止策として実施すべきことが記載されていますが、具体的な手法については記載されていません。 本規格は、全世界の全ての製品やサービスが対象であり、その再発防止策はそれぞれ異なっているため具体的な手法を記載できないのは仕方のないことでしょう。 そのため各企業様が、自社の実情に応じてルールを決め、それに従って対処しなさいということで、独自の有効なルールを確立できなければ、本規格の認証を取得していても品質不具合を大きく削減できないことになります。

また、認証取得や更新時の審査員による審査でも「是正処置」に関しては、管理システム上の是正処置については細かく指摘されますが、実際の製品やサービスの是正処置についてはほとんど指摘されません。

どうも、具体的な製品やサービスの不適合に対しては、あまり深入りできないのが本規格の実態のようです。

まとめ

上記に、ISO9000の様々な特徴を記載してきましたが、まとめとして

①品質管理システムとしては非常に優れたシステムであり、現状の維持・向上には最適である。
②一方、品質不具合の改善に対しては具体的な指示はなく別の手法を考える必要がある。

ということになります。

実は、ISO9000の認証を取得している事業所は、公益財団法人 日本適合性認定協会(JAB)の資料によりますと、2006年度末に約4.4万事業所と最大になった後、2020年度末には約3万事業所まで約3割も減少していることが解ります。 この理由は、はっきりとは解りませんが、もしかすると品質不具合の削減に対しては大きな効果がないことが要因であるかもしれません。

今回はここまで、次回は、実際に品質不具合を大幅に削減できた事例を紹介いたします。

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