品質改善:品質不具合の原因究明で失敗する事例

品質不具合の原因究明の重要性

大阪・兵庫が地盤で、品質管理・生産性向上等の「工場経営改善」を得意とするコンサルタント、 薄木栄治 です。

さて、前回までのブログでは、「品質意識向上」と「原因・対策の実施」だけで、品質不具合の削減は可能であると述べましたが、今回は、原因究明に失敗している事例をあげ、適切な原因究明を実施するためのヒントを見つけていきたいと思います。

「品質不具合が全く減らない」企業様の特徴として「原因究明」が適切にできていないということがあげられます。 当たり前のことですが、真の原因から遠い原因を基に対策を考えても品質不具合が減らないのは当然ですね。 これは品質に限らず、病気や災害など全てに共通することで、例えば、虫垂炎で腹痛が生じているにも関わらず、痛み止めを飲んでも良くならないのと同様です。

こんなこと当たり前ではないかと皆さんは思われると思いますが、実際の品質不具合の原因究明の場面では、不適切な原因を真の原因と考え、対策を検討されている企業様をよくみます。 このような企業様では、やはり、品質不具合が全く減らず、常に苦しんでおられるようです。

生じた事象を原因と思い込む失敗事例

例えば、「機械加工中に製品にキズを付けた」という品質不具合の原因究明において、「切削用の刃物が欠けたため」と原因を特定した場合を考えます。 皆さんはこれが適切な原因であると思われるでしょうか。 やはり、これでは物足りないと皆さんも考えられると思います。 なぜ物足りないのでしょうか。 まず、「刃物が欠ける」ということですが、例えば、家庭でドリルを使う時を考えて下さい。 何度も穴をあけていると、だんだんと切れ味が悪くなり、そのうちに折れてしまいます。 そのため、切れ味を見ながらそろそろ新しいドリルに替えようと考え、交換しますね。 機械加工も同じです。 作業者はいつか刃物が欠けるのは解っているので、いつ交換しようかと常に考えているわけです。 そう、本来考えるべき原因は「刃物が欠けたから」ではなく、「刃物が欠ける前に交換しなかった」こととなります。 「刃物が欠ける」ということは単なる事象であり、なぜ「刃物が欠ける」状況になったのかを考える必要があります。

もし、「刃物が欠けたから」を原因としてしまうと、対策は、「欠けない刃物を使用する」ということになります。 しかし、欠けない刃物はどこにもありませんので、結局、対策を実施することはできず、何度でも同様の品質不具合が再発することになります。

過去の不具合対策を考慮しない失敗事例

上記の例では、原因は「刃物が欠けたから」と考えたことから「刃物が欠ける前に交換しなかった」と少し深堀りされました。 それでは「刃物が欠ける前に交換しなかった」と原因を特定してよいでしょうか。 この場合の対策は「刃物を交換する基準を作成する」となり、例えば「5個加工すれば刃物を新しいものと交換する」等の交換基準を作成することになります。

この対策で充分のように思えるのですが、もう少し考えてみましょう。 作業者は、いつか刃物が欠けることを当然知っており、明文化された交換基準は無くとも、作業者個人の交換基準(目安)は持っていると考えて良いでしょう。 また、少なくとも加工メーカであれば、刃物の欠けによる品質不具合は過去にも生じているはずであり、その時になんらかの基準を決めているはずです。

そうすると、「刃物が欠ける前に交換しなかった」原因をさらに深掘りする必要があります。 決めていた「交換基準(目安)を守っていたのに刃物が欠けた」のか、「交換基準(目安)を守らなかったので刃物が欠けた」のか、どちらの原因であるかにより、対策は全く変わってきます。

前者であれば「交換基準が間違っていた」ことが原因であり、対策は、「交換基準を見直す」ことになり、後者であれば「作業者が基準を守らなかった」ことが原因ですので「基準を守らせる方法を考え、実施する」ことが対策となります。

通常、多くの品質不具合は過去にも同様の不具合が生じており、その時になんらかの対策が実施されています。 過去の対策に対して、「対策が不十分であったのか」「対策を守らなかったのか」という観点で原因を考えることは、大変重要であると考えています。

まとめ

上記の通り、「生じた事象を原因とする場合」と「過去の不具合を考慮しない場合」には、適切な原因究明ができないことを述べました。 これ以外にも、多くの不適切な原因究明の事例はありますが、この2点は、私の長年の経験の中で最も典型的な事例です。

前者は、初心者に多く見られますが、後者は、ベテランであってもこの観点を持ち合わせていない方を見かけます。 「良く似た品質不具合は、過去にも未来にもある」と認識して頂くことが最も重要です。 皆さんも、この2つの観点を充分に認識して原因究明にトライしてみてはいかがでしょうか・・・

今回はここまで、次回は、品質不具合の原因の究明の方法のひとつである「なぜなぜ分析」について記載いたします。

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