品質改善:品質不具合を大きく削減させた事例について
ある企業様の事例
大阪・兵庫が地盤で、品質管理・生産性向上等の「工場経営改善」を得意とするコンサルト、 薄木栄治 です。
さて、前回までのブログでは、「品質意識」が重要で、ISO9000の認証取得だけでは品質不具合を思ったように削減できないということを述べましたが、今回は、対策実施3ヵ月で品質不具合を75%削減した中堅の機械加工会社A社の事例を紹介いたします。
A社は中堅の機械加工会社であり、サイズの大きな製品の機械加工を得意とし、大型マシニングセンタ、大型旋盤などを使用する多品種少量生産の加工メーカです。 組織としては、製造課に加えて、技術室、品証室のサポート部門もあり体制は整っています。 また、ISO9000の認証も取得し、それに基づいた品質管理を実施していることから大手メーカとの取引もあり、充分に信頼できる会社といえます。
品質会議にオブザーバとして参加
約10年前、あるきっかけでA社の1回/月の品質会議にオブザーバとして出席することになりました。 この品質会議は、部門長を筆頭としてその傘下の製造課、技術室、品証室の各メンバー約10名で構成され、品質不具合件数の推移、品質不具合の原因・対策、前月指示事項の改善実施状況などの報告を受け、それらの報告に対する質疑・検討・指示を行うという、ISO9000の考えに沿ったオーソドックスな会議でした。 この中で、品質不具合がコンスタントに3件/月発生していることが報告され、大物加工品にしては少し多いなと気にしながらもオブザーバ参加であることからしばらく様子を見ていました。 この会議では、それなりの原因・対策も実施されているのですが、半年過ぎても3件/月が継続していましたので何かやり方を変える必要があるのではないかと思い、品質不具合が減らないことについて質問をしてみました。
品質不具合が減っていないが・・・
ちょっと意地悪な質問をしたのですが、その再現をしたのが下記です。
質問 今の不具合件数は多いと思うか?
回答 YES 是非とも減らしたい
質問 減らしたいにも関わらず、件数が減っていないがこれでよしとしているのか?
回答 NO 是非とも減らしたいと考えている
質問 そうであればもっとやり方がある。 なぜ減らないと考えているのか?
回答 解らない それなりにやっているが・・・
質問 であれば、別途「品質改善ミーティング」で削減活動を実施してもいいがどうか?
回答 是非実施したい
とこんな感じで、製造現場の責任者が回答してくれました。 このような経緯で、品質会議とは別に「品質改善ミーティング」と称した「品質不具合の原因・対策再レビュー」を実施することになりました。 一方、多くの参加者は「自分たちは機械加工の専門家であり外部から来て何ができるのだ」と考えている雰囲気でした。
なぜ原因・対策の再レビューだけで品質不具合を削減できると考えたか?
品質不具合を削減することについて、皆さんは「様々な工夫をしているが減らない。簡単なことではない」と思われているかもしれません。 私は「品質不具合の原因・対策の再レビュー」のみで実現できると考えています。 品質不具合はその組織の最も弱いところが現出したものであり、常に同じような不具合が発生します。 そのため、その組織の最も弱い過去の不具合の真の原因を突き止め、適切な対策を実施すれば、必ず品質不具合は削減できると確信しているからです。 そして、「品質管理と品質改善 ~品質不具合「0」を目指して」のブログで記載したように複雑に見える品質不具合の原因も、究極的には「ルール」「技術」「エラー」の3要素(真の原因)に集約されており、この3要素に対して適切な対策を考え実行すれば、品質不具合は必ず削減できると考えています。 この3要素を意識すると容易に真の原因を見つけ、適切な対策を取ることができるようになります。
品質改善ミーティングの開始
早速「品質改善ミーティング」を開始しました。 既に「品質会議」で品質不具合に対する原因・対策を実施していましたので、過去6ヶ月分(約18件)の品質不具合の原因・対策及びその実施状況を一覧表にまとめて頂き、それぞれの案件について再度レビューしていくという形です。 初回の会議に先立ち上記の一覧表を熟読し、自分なりに真の原因について考えました。 「品質会議」に出席している時にはあまり感じなかったのですが、実際に当事者として原因・対策をレビューしてみると、今までの原因・対策は表面的なものであったと解ってきました。
頭の中を整理した上で初回の会議に臨みましたが、やはり、「素人が来て何ができる」との不審の目に取り囲まれました。 しかしながら、1件の不具合に対して、様々な側面から原因の可能性を追求し、真因に迫ろうとすると、参加者の皆さんは今まで考えていた原因では充分でないことを理解してくれるようになってきました。 結局2時間の会議時間で3件のレビューしか実施できなかったのですが、時間が経つにつれ、皆さんの顔色が少しずつ変わっていき真剣な討議ができたことは望外の成果でした。 このようなことを実施するとともに、不具合が生じた状況の現場確認や対策の実演など、現場第一線の作業員の参加も促していきました。
突然品質不具合が75%減少、25%に!
元々、この活動は1年後に品質不具合が半減すれば大成功と考えていました。 しかし、品質不具合は3ヵ月間横ばいを続けた後、4ヵ月目にいきなり1件/月に減少しました。 そして、その後も0件または1件を継続し、少なくとも1年間は2件/月に戻ることも無くなりました。 この急激な変化はどうしたことなのでしょうか?
当初、品質不具合は原因を突き止め対策を実施し、その効果として減少していくものと考えていました。 しかし、この4ヵ月目というのは、まだ真の原因が解りかけてきたところぐらいで、対策を実施するところまではとても到達していません。 それにもかかわらずこれだけ減少したのは別の要因があったものと考えるほかありません。
なぜA社の品質不具合は一気に減少したのか?
今回の品質不具合の急激な減少はなぜ起こったのでしょうか? ここでのA社が状況は下記の通りです。
<元々あったもの>
①ISO9000による品質管理のシステムは働いていた。
②品質検討会により、品質不具合削減活動は実施していた。
③品質不具合を減らさなければならないという意識はあった。
<新たに生まれたもの>
①品質不具合の原因・対策で真因を掴むところまで深めた。
②現場作業員まで巻き込む活動になった。
③社長も動き始めた。
上記を総合的に考えてみると、
①元々品質不具合を削減したいという気持ちはあったが、効果的な実施方法が解っていなかったが、
②真の原因を掴む活動を含めた組織的な活動を実施することで、全社的な「品質意識が向上」し、
③品質不具合を出してはいけないと、現場作業員が一つひとつの作業を丁寧にするようになった。
からではないかと考えました。 これは、自動化があまり進んでいない職場であり、作業員一人ひとりの品質意識が品質改善に大きく影響したものと思います。
まとめ
今回、「品質不具合の原因・対策の再レビュー」で品質不具合減少に取組みましたが、思いも寄らず、品質意識向上のみで、75%の不具合削減を達成してしまいました。 これは、私にとっても驚きの事実で、品質意識というのがいかに品質改善に取って重要であるかということを教えてくれました。 このような成果はどのような場面でも得られるとは限らず、今回は、大変まれな事例であったと考えています。 しかし、経営トップを含めた全社的な品質意識向上が品質改善には最重要であることは間違いありません。 私は、これらの経験から「品質意識向上」と「原因・対策の実施」だけで、品質不具合の削減は可能であると確信しています。 ある部門のトップがその気になれば、原因・対策を実施できる専門家を採用すれば、その部門の品質改善は容易に実現できるということです。 皆さんも一度トライしてみてはいかがでしょうか・・・
今回はここまで、次回は、品質不具合の原因の究明の方法について紹介いたします。